中田英寿選手との出会い
その3

 今回は契約更改について触れてみよう。


 プロ選手は、年に一度契約更改を行なう。中田(英)選手も例外ではない。

まず、ここでチーム(全選手)と私(勤ちゃん)との関係を述べておこう。

 当時選手は1軍と2軍に別れており

     1軍《もちろん中田(英)選手は1軍のエース》約20名
     2軍《サテライト》             約20名
             合計            約40名

 年度替りに、約10名前後の戦力外通告選手が出る。

即ち再契約しない選手である。

 私のベルマーレ平塚での立場であるが、役職名は常務取締役チーム統括部長と

いって、チーム全体の最高責任者である。従って選手との契約更改は、会社を代表

して1人で選手約30名と交渉(話し合い)をすることになる。


 前置きはさておき

 中田(英)選手との契約更改に話を戻そう。

 もちろん言うまでもなく、最もチームとして必要な選手であるから、会社側と

しても是が非でも再契約したい選手である。

 交渉(話し合い)は、原則3回と決めて臨む。概ね1回が約1時間と決めていた。

1回目は、1年間のガス抜きも含めて、私は選手の言い分を黙って拝聴する。

そして2回目は、前回の選手の発言に対して、私の目から見た見解をこちらから

一方的に話をする。

そして3回目は、そこで最後の折り合いがつくか否か?ということは、こちらから

提示した条件(主に年棒)に、同意してサインするか否か?

 以上が大まかな契約更改の流れであるが、相手(選手)は約30名、こちら(会

社側)は私一人である。


 中田(英)選手とも同様な手法で進めていくわけだが、彼と交渉(話し合い)は

他の選手とは全く内容・レベルが違う。他の選手は、自分のことのみ、それも年棒

のみ要求してくるが、中田(英)選手は、自分個人のことはまったく要求してこな

い。すべてチームが強くなるためにしなくてはいけない施策。これが彼の契約更改

時の要求の全貌である。

 そして、3回目の交渉(話し合い)に入るわけだが、そこでも年棒についての

話し合いは一切無く、チームの戦力アップの話をしたところで

  中田(英)選手 「・・・それでは・・・帰ります。」と言って部屋を
           出て行こうとする。

  中村 勤ちゃん  「ちょっと待ってよ。まだ契約書にサインしてないよ。」
           「金額どうするんだ。」

  中田(英)選手 「中村さん、適当に書いておいて下さい。」

 チームの強化に対する要求はするが、自分個人に対してはまったくゼロ。


大勢の選手をみてきたが、中田(英)選手のような“FOR THE TEAM”に

徹した選手には、未だ会ったことがない。

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